技能実習生の失踪を防ぐには|原因と受け入れ企業の対策
技能実習生の失踪は、制度の問題として繰り返し報じられています。 ただし報道や解説記事の多くは、制度批判か統計の紹介で終わります。借金を背負って来日する構造、劣悪な労働環境、転籍できない仕組み。
技能実習生の失踪は、制度の問題として繰り返し報じられています。
ただし報道や解説記事の多くは、制度批判か統計の紹介で終わります。借金を背負って来日する構造、劣悪な労働環境、転籍できない仕組み。それらは事実ですが、受入企業として何をすればいいのかは書かれていません。
当社では、失踪は起きていません。実習生同士のトラブルもありません。
ただし「途中で帰国したい」と言われたことはあります。
この記事では、実際に何をしているかを書きます。制度の話ではなく、日常の運用の話です。
書き手は、従業員約50人の建築・内装会社で総務部長を兼任し、受入れ実務を担当しています。
「帰国したい」と言われたことがある
3年目に入った頃でした。

失踪ではありません。正規の手続きで帰国したい、という申し出です。 理由は本人の事情によるもので、労働環境への不満ではありませんでした。
それでも、この時点で何かが起きていたということです。
3年目という時期
技能実習は原則3年です。3年目は、終わりが見えてくる時期でもあります。
来日した当初の緊張感が薄れ、日本での生活にも慣れる。同時に、母国に残してきた家族のこと、帰国後の生活のことが現実味を帯びてきます。
この時期に、気持ちが揺れることがある。 当社の経験としては、そういう認識でいます。
早く気づけるかどうか
重要なのは、申し出があった時点で気づけたことでした。
黙って姿を消されれば失踪ですが、相談があれば話し合えます。相談できる状態を作っておくかどうかが、失踪との分かれ目だと考えています。
相談窓口を作る
当社では、総務に気軽に相談できる窓口を作っています。
チャットで直接連絡が取れる形にしました。改まった面談ではなく、日常的に聞ける状態にしておくことが重要です。
なぜ改まった面談では足りないか
監理団体の定期訪問でも面談は行われます。しかし、月に一度の面談で本音が出るとは限りません。
「何か困っていることはありますか」と正面から聞かれて、「あります」と答えられる人は多くない。特に、立場が弱いと感じている場合はなおさらです。
一方で、日常的にやり取りしている相手には、小さなことを言いやすくなります。「体調が悪い」「書類の意味がわからない」「バスの時間が変わった」。 こうした些細なやり取りの積み重ねが、大きな相談への入口になります。
母国語で聞ける状態にしておく
日本語で言いにくいことも、母国語なら言えます。
翻訳を介してでも、母国語で受け付ける窓口があるかどうかは大きい。当社では翻訳を使いながらやり取りしています。
2年目以降は、先輩の実習生が通訳として機能する面もあります。ただし、先輩には言いにくい内容もあります。会社への直通の経路は、別に確保しておくべきです。
同じ国で固めた
当社は、受け入れる国をある程度まとめています。

結果として、実習生同士のトラブルは起きていません。
理由
同じ言語を話し、同じ生活習慣を持つ人同士であれば、日常の摩擦が起きにくいからです。
食事、生活時間、宗教、価値観。異なる国の人を同じ社宅に住まわせると、こうした部分で衝突が起きる可能性があります。
同じ国で固めるのは、トラブル予防としては合理的です。
ただし副作用もある
一方で、日本語を学ばなくなるという問題が出ます。
母国語で完結する環境ができてしまうと、日本語を使う必要がなくなる。特に2年目以降、先輩がいる状態では顕著です。
特定技能への移行には日本語の要件があります。 そして2027年から始まる育成就労では、日本語要件がさらに明確になります。
同じ国で固めることの利点と、日本語習得が止まる欠点は、同じ構造から出ています。 意識的に切り分ける必要があります。
社宅の管理が、想像以上に重要
これは事前に想定していませんでした。
若い人たちが集まって住むと、生活が乱れることがあります。
社宅に集まって宴会をする。片付けない。汚れが蓄積する。日本人の若手が寮に住んでいても起きることですが、放置すると衛生面の問題になります。
清掃をさせることは、管理の一部
当社では、清掃を明確にルール化しています。
「気をつけてください」では機能しません。誰が、いつ、どこを清掃するのかを決める必要があります。
これは細かい話に見えますが、生活環境の乱れは、生活態度の乱れにつながります。 そして最終的には、仕事にも出ます。
社宅使用ルールは、現地語で作る
ここが最も重要な実務です。
日本語でルールを貼っても、読めなければ意味がありません。現地語で作成し、明示してください。
- ゴミの分別と出す日
- 清掃の分担と頻度
- 騒音(近隣への配慮)
- 火気の扱い
- 来客の可否
- 退去時の原状回復
「言ったはず」は通用しません。 書面で、読める言語で、最初に渡す。それだけで防げる問題が相当あります。
面接時に確認すべきこと
トラブルの予防は、面接の段階から始まっています。
喫煙
喫煙するかどうかは、必ず確認してください。
問題は本人の健康ではなく、社風と合うかどうかです。
現場に喫煙者が多い会社もあれば、全面禁煙の会社もあります。社宅での喫煙をどうするかという問題もあります。受け入れてから「実は吸う」と分かると、対応が後手になります。
面接時に確認し、自社のルールを先に伝えておく。 これで防げます。
飲酒
こちらはより重要です。
飲酒自体を禁じることはできませんが、酒気帯びでの就業は絶対にさせてはいけません。 建設・内装の現場では、命に関わります。
そして社宅で集まって飲む場合、翌朝に残ることがあります。
管理として必要なのは次の点です。
- 就業前日の飲酒についてルールを明示する
- 社宅での飲酒の可否と時間帯を決める
- 現場に入る前の状態確認を、誰がどう行うか決めておく
これは日本人の従業員にも同じことが言えますが、生活の場を会社が用意している以上、管理の責任範囲が広くなります。
生活面の素養
清掃や整理整頓といった生活習慣は、本人の素養によるところが大きいというのが実感です。
面接の短い時間で完全に見抜くことはできませんが、質問の仕方によってある程度は分かります。 現在どういう生活をしているか、共同生活の経験があるか。
監理団体が面接前にテストを実施している場合、その結果も参考になります。
失踪を防ぐという発想の限界
最後に、考え方について書きます。

「失踪を防ぐ」という発想だけでは、限界があります。
囲い込む、監視する、逃げられないようにする。この方向で対策しても、根本的な解決にはなりません。 そして2027年からの育成就労では転籍が可能になるため、囲い込みという発想自体が成り立たなくなります。制度の変更点は別記事で整理しています。
必要なのは、出ていく理由をなくすことです。
- 相談できる相手がいる
- 生活環境が整っている
- ルールが読める言語で示されている
- 給与や労働条件が説明されている
- 3年後の見通しが立っている
当社で失踪が起きていないのは、これらを続けているからだと考えています。 特別なことはしていません。
そして「帰国したい」と言われたときに、それを聞ける関係があったこと。 これが最も重要だったと思っています。
これから受け入れる会社へ
1. 社宅使用ルールを現地語で作る。 日本語で貼っても読めません。書面で、最初に渡してください。
- 清掃をルール化する。 「気をつけて」では機能しません。誰がいつどこを、まで決めてください。
- 喫煙と飲酒は面接時に確認する。 特に飲酒は、酒気帯び就業の防止として管理が必要です。
- 相談窓口を日常的な形で作る。 月一の面談では本音は出ません。チャットなど、気軽に聞ける経路を用意してください。
- 同じ国で固めると摩擦は減る。 ただし日本語習得が止まる副作用があります。
- 3年目は気持ちが揺れる時期。 終わりが見えてくると、迷いが出ます。相談できる状態を保ってください。
よくある質問
失踪を防ぐには何をすればいいですか
囲い込むのではなく、出ていく理由をなくすことです。相談できる相手がいる、生活環境が整っている、ルールが読める言語で示されている、3年後の見通しが立っている。当社ではこれらを続けています。
相談窓口はどう作ればいいですか
月に一度の面談では本音は出ません。チャットなど、日常的に気軽に聞ける経路を用意してください。些細なやり取りの積み重ねが、大きな相談への入口になります。
社宅のルールはどう決めればいいですか
現地語で書面を作り、最初に渡してください。日本語で貼っても読めません。ゴミの分別、清掃の分担、騒音、火気、来客の可否、退去時の原状回復。「言ったはず」は通用しません。
実習生同士のトラブルは起きますか
当社では起きていません。受け入れる国をまとめているため、言語と生活習慣が共通していることが理由と考えています。ただし母国語で完結する環境ができるため、日本語の習得が止まるという副作用があります。
飲酒はどう管理すればいいですか
飲酒自体を禁じることはできませんが、酒気帯びでの就業は絶対にさせてはいけません。就業前日の飲酒についてルールを明示し、現場に入る前の状態確認を誰がどう行うか決めておいてください。
「帰国したい」と言われたらどうしますか
まず話を聞いてください。黙って姿を消されれば失踪ですが、相談があれば話し合えます。相談できる状態を作っておくかどうかが、失踪との分かれ目だと考えています。
この話の、実例を持ち寄る場があります。
記事の内容を「自社ではどう回すか」まで落とすのが、月例の少人数ビジネス深掘り会です。新着コラムと開催案内は、公式LINEでお届けしています。