中小企業のIT基盤刷新|費用横ばいで得られた効果
結論から書きます。費用はほとんど変わりませんでした。 社内ファイルサーバーを廃止し、Google Workspaceに移し、チャットとWeb会議のツールを解約し、社内ポータルを自作しました。
結論から書きます。費用はほとんど変わりませんでした。
社内ファイルサーバーを廃止し、Google Workspaceに移し、チャットとWeb会議のツールを解約し、社内ポータルを自作しました。それで削減できた金額は、増えた金額とほぼ相殺されています。
「クラウド化でコスト削減」という話を期待して読み始めた方には、申し訳ない内容です。
それでも、この判断は正しかったと考えています。変わったのは金額ではなく、できることの範囲でした。
この記事は、一連の取り組みを経営判断としてまとめたものです。個別の実務は別記事に分けています。
書き手は、従業員約50人の建築・内装会社で総務部長とIT部長を兼任しています。前職はシステムエンジニアを約15年。情シスの専任担当はいません。
何をやったか
きっかけは、社内ファイルサーバーのリース更改でした。UTM1台の見積もりが100万円前後という金額を見て、同じ構成をもう5年続ける意味を考え直したのが始まりです。

同じ時期に、Gmailの外部メール取得機能が終了するというアナウンスが出ました。当社は独自ドメインのメールをレンタルサーバーで運用し、それをGmailに取り込んで読んでいたため、期限までに対応が必要な状態になりました。
この2つが重なったことで、まとめて作り直す判断をしています。
| 時期 | やったこと |
|---|---|
| 検討 | ファイルサーバー更改の見積もり取得、Microsoft 365との比較 |
| 導入 | Google Workspace(Business Standard)契約、初期設定 |
| 移行 | メール移行(35アカウント)、共有ドライブへ2TBを移設 |
| 整理 | LINE WORKS・Zoomの解約、rakumoカレンダーの追加購入 |
| 構築 | 社内ポータルの自作 |
ファイルの移行は、業務を止めずに進めたため約6ヶ月かかっています。
費用はどうなったか
増減を整理します。

減ったもの
ファイルサーバーとUTMの更改費用。 サーバー本体、UTM、バックアップ装置、設置作業。UTMだけで5年間に100万円前後という水準でした。これがなくなりました。
チャットツール(LINE WORKS)。 全社員分を契約しており、ストレージのオプションも付けていました。完全に解約しています。
Web会議ツール(Zoom)。 3アカウント分を契約していました。こちらも完全に解約しています。
増えたもの
Google Workspaceの月額。 Business Standardを全社員分。これが最も大きい増加です。
rakumoカレンダーの費用。 Googleカレンダーは個人の予定管理として設計されており、部署の予定を横並びで見る、会議室の空きを一覧で確認するといった使い方に向いていません。追加製品が必要になりました。
変わらないもの
Microsoft Office。 買い切りのライセンスを使っているため、変更していません。
スプレッドシートへの移行を進めれば将来的に削減できますが、現時点では現場管理など一部の部署に留まっています。 全社的な置き換えには至っていません。
公表価格でざっくり計算すると
実額は契約条件によりますが、各社の公表価格をもとに50人規模で試算すると、規模感はこうなります。
減った側
| 項目 | 単価(公表価格・税抜) | 50人での年額 |
|---|---|---|
| LINE WORKS スタンダード | 450円/人・月 | 約27万円 |
| 同 Driveオプション | 100円/人・月 | 約6万円 |
| Zoom プロ(3ライセンス) | 3,000円前後/月 | 約11万円 |
| ファイルサーバー更改(UTM分を5年で按分) | ― | 約20万円 |
| 小計 | 約64万円 |
増えた側
| 項目 | 単価(公表価格・税抜) | 50人での年額 |
|---|---|---|
| Google Workspace Business Standard | 1,600円/人・月 | 約96万円 |
| rakumoカレンダー | ユーザー課金 | ― |
差し引くと、年間で30万円前後の増加という計算になります。ここにrakumoの費用が乗ります。
一方で、UTM以外のハードウェア費用(サーバー本体、バックアップ装置、設置作業)、保守契約、電気代、障害対応の工数は上表に入っていません。これらを含めれば、実際の差はもっと縮まります。
当社の実感が「横ばい、あるいはわずかに増加」なのは、この辺りが相殺し合っているためです。
なお上記はすべて公表価格からの概算です。 実際の契約額は条件によって変わります。自社で試算する際は、いま払っている請求書の金額をそのまま並べてください。
差し引き
横ばい、あるいはわずかに増加。 これが実際のところです。
つまり、こういうことです。
クラウド化そのものではコストは下がらない。下がるのは、重複していたSaaSを解約できたとき。そしてその削減分は、新しく払う費用でおおむね相殺される。
「クラウド移行で年間◯百万円削減」といった事例を見ることがありますが、当社の規模と構成では、そうはなりませんでした。
では、何を得たのか
金額が横ばいなら、判断の是非は別の軸で測る必要があります。

1. 使えるものが大幅に増えた
これが最も大きい変化です。
同じ支払いで、使えるサービスの数が桁違いになりました。 メール、ファイル共有、チャット、Web会議、カレンダー、アンケートフォーム、簡易的なアプリ開発環境。以前はこれらを別々に契約するか、そもそも持っていませんでした。
特に生成AIが標準で使えるようになったことは、当時想定していた以上の変化です。 これは契約時点で主要な判断材料にしていたわけではありませんが、結果として最も効いています。
2. データがクラウド上にある
社内サーバーに置いていた頃は、そこにあることが前提の働き方でした。
事務所が分かれれば、拠点間の接続を用意する必要があります。在宅で作業するにはVPNが必要で、その運用と障害対応も自分たちで抱えることになる。サーバーが止まれば業務も止まります。
いまは、ブラウザが開ければどこからでもアクセスできます。現場からスマートフォンで図面を確認できるようになったのは、建築・内装業では想像以上に効いています。
3. メールの遅延がなくなった
移行前は、受信に10分以上かかることが常態化していました。
ワンタイムパスワードが有効期限内に届かず認証が通らない。取引先から「送った」と言われても手元にない。全員がその不便に慣れてしまい、誰も問題だと言わなくなっていました。
解消されて初めて、それが異常だったと社内で認識されました。
4. 情報がひとつなぎになった
共有ドライブに移しただけでは、「どこに何があるか分からない」問題は解決しませんでした。階層が深くなり、他部署から見ると辿り着けない。
そこで社内ポータルを自作し、業務システムへの入口と、共有ドライブへの地図を集約しました。 採用で人が増えた時期でもあったため、新しく入った人が自分で動けるようになったことが大きな効果でした。
投じた工数
金額以外のコストとして、人の時間があります。

| 項目 | 工数 |
|---|---|
| Google Workspaceの導入・定着 | 約1人月(35アカウント時点) |
| ファイルサーバーからの移行 | 2TB・約6ヶ月(業務は止めず) |
| 社内ポータルの構築 | 約1人月 |
これらは、情報システムの専任担当がいない状態で、他業務と兼務しながら進めた実績です。
ポータル構築の内訳が示すもの
社内ポータルの1人月は、内訳が特徴的でした。
- 準備・設計:約0.3人月
- 実装:約0.2人月
- テスト・改修:約0.5人月
実装は全体の2割です。 従来、社内システムを作るといえば時間の大半はコードを書くことに費やされましたが、その部分をAIに任せた結果、比率が逆転しています。
代わりに増えたのは、何を作るべきかを決める設計と、意図通り動くかを確認するテストです。この8割は、社内の事情を知っている人にしかできません。
やらなかったこと、残っている課題
正確を期すために、達成できていないことも書きます。
Officeからの脱却は道半ば
スプレッドシートへの置き換えは、現場管理など一部の部署に留まっています。 長年Excelで作られた見積書や工程表があり、移すと表示が崩れるものがある。
Microsoft Officeは買い切りのため現時点で追加費用は発生していませんが、将来の更新時に削減できるかは、置き換えがどこまで進むか次第です。
データの活用はこれから
データを一箇所に集めることが目的だったので、集めた先で何をするかは、まだこれからです。
社内のデータが散らばった状態では、生成AIに何かをさせようとしても対象がありません。共有ドライブへの集約は、その前提を整える作業でした。前提は整いましたが、活用の段階には入れていません。
自作システムの属人化
社内ポータルを設計・構築したのは私一人です。私が離脱した場合、保守できる人はいません。
AIで実装したため、ドキュメントは後から生成でき、別の人がAIで書き直すこともできます。従来型の属人化は弱まりました。それでも「何を作るべきかを判断する人」は必要です。
このリスクは、承知のうえで引き受けています。
経営判断としてどうだったか
まとめます。
費用は横ばい。 クラウド化そのものでは下がりませんでした。下がったのは重複したSaaSを解約した分で、それは新しく払う費用と相殺されています。
使えるものは大幅に増えた。 同じ支払いで、扱えるサービスの範囲が広がりました。特に生成AIが標準で使えるようになったことは、当初の想定を超えています。
働き方の制約が減った。 データが社内サーバーにあることを前提にした働き方から、場所を選ばない形に変わりました。拠点が分かれても、在宅でも、現場からでもアクセスできます。
次の投資の前提が整った。 データが集まっていない状態では、何を導入しても効果が出ません。土台を作り直したことの意味は、これから出てくると考えています。
判断のタイミングについて
最後に、実務的な話を1つ。
この規模の入れ替えは、平時には通りません。 何もない時期に「クラウドに移しましょう」と提案しても、稟議は動きません。
当社が動けたのは、リース更改とサービス終了という2つの期限が、外から来たからです。社内で変える理由を作るのは難しくても、外部から来た期限は、その理由を代わりに用意してくれます。
中小企業のDXが進まない最大の理由は、技術でも予算でもなく、変える理由を社内で作れないことだと思います。
いま同じ状況にある会社は、手元にある期限を探してください。 リースの満了日、サポートの終了予定、契約の更新時期。それが最も通りやすい稟議の材料になります。
よくある質問
結局、投資に見合いましたか
金額だけを見れば横ばいなので、投資対効果を数字で示すことはできません。判断の根拠は、使えるものが増えたこと、働き方の制約が減ったこと、次の投資の前提が整ったことの3点です。
何人規模から検討する価値がありますか
人数より、社内サーバーを持っているかどうかだと考えています。更改時期を迎えているなら、規模にかかわらず一度は比較すべきです。
情シスの専任担当がいなくてもできますか
当社は兼務で進めました。ただしDNSやメール認証の知識がある前提の工数です。経験がなければ、代理店やベンダーへの委託費用を見込んでください。
どこから手をつけるべきですか
いま契約しているSaaSを全部書き出すことです。チャット、Web会議、ファイル共有、フォーム。重複しているものがどれだけあるかで、判断がまったく変わります。
一度に全部やる必要はありますか
ありません。当社はファイルサーバーの更改とメールの期限が重なったため、まとめて実施しました。片方だけでも成立します。
失敗するとしたら、どこですか
移行が終わらないことだと思います。2TBを棚卸ししてから移そうとすると、まず終わりません。触る範囲を、自分が判断できるところに限定してください。
この話の、実例を持ち寄る場があります。
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